「観鈴、友達はいないのか?」
「えっ!? どうしてそんなこと訊くの往人さん?」
「いや、今日は旗日であろう? こういう日は友達とどこかへ遊びに行くものではないのか?」
「にはは。今は夏休みだからわざわざ祝日を利用してどこかには行かないよ」
 確かに、夏休み中ならばどこかの観光地に行くにしても、敢えて人の多い旗日を選ぶということはない。そんなことは百も承知だったが、それしか言い訳を考え付かなかったので、咄嗟に喋ってしまっただけだ。
 今まで旅をしてきた中第三者の視点で見た限りにおいては、観鈴と同年代の少女達は大概数人のグループで行動しているように思えた。あまり良い例えではないが、過日フィールドワークの途中ですれ違った観鈴のクラスメイトのように。
「観鈴。悪いが今日もフィールドワークは中止だ。お前をある場所へ連れて行きたい」
「えっ!?」


第弐拾五話「再び遠野へ」

 釜石線を上り約一時間、私と観鈴は目的地である遠野へと着いた。最後にこの駅を訪れたのは、遠野一佐と出会った日だ。あれから数日しか経っていないとはいえ、随分と久し振りに訪れたような感覚を覚える。
「ここが遠野かぁ〜〜。イメージしていたのとはちょっと違うかな?」
「観鈴、遠野へ来たことはないのか?」
「うん。お父さんお仕事忙しくて一緒に旅行とか行ったことないし。わたし、あまり釜石の外に出たことなかったから。ここに、往人さんの友達がいるんだよね……?」
「ああ。お節介だったか?」
「ううん。とっても嬉しいけど、ちょっと緊張するかな?」
 もし、観鈴に友達がいないのなら、それを作る機会を与えてやりたい。そう思い、私は観鈴を遠野へ連れて来ることを決意したのだ。今まで孤独な身だった私と難なく打ち解けられた佳乃嬢や美凪嬢ならば、観鈴と容易に友達になれるであろう。
 無論、観鈴に二人と友になることを押し付けるつもりはない。一度会って馬が合わないならば一期一会の関係で良い。ただ、少しでも観鈴とは同年代同姓の人と触れ合う楽しさを体感して欲しいだけだ。
「ヤッホー! 久し振り、大佐!」
「お久し振りです、鬼柳さん……」
 待ち合わせ場所である遠野博物館へと赴くと、早速佳乃嬢と美凪嬢が出迎えてくれた。
「そちらがお話にあった神尾さんですね? 初めまして、私は遠野美凪と言います……」
「あたしは佳乃、霧島佳乃だよ! よろしく、観鈴さん!」
「えっと、私は神尾観鈴です。美凪さん、佳乃さん初めまして」
 観鈴は多少緊張した感がありつつも、笑顔で二人に挨拶した。とりあえず二人との初対面は悪い印象ではないようだ。
「ところで、神尾さん……。例のモノはきちんと持って来ましたか?」
「うん。ちゃんと持って来たよ」
「それなら問題なしだね! ポケモンリーグトオノ大会、開始だよ〜〜」
 佳乃嬢の宣言により、ポケモンリーグトオノ大会の幕が開けた。大会などと見栄を張ってはいるが、実際は三人でゲームをして遊ぶだけだろう。何にせよ、「ポケモン」なるゲームを持っていない私は蚊帳の外だろうが。
「では、大会の説明を行います……。使用するポケモンは6体のフルバトル。ポケモンの交換は観鈴さんにのみ認められます。そして、見事観鈴さんが私と佳乃ちゃんを倒した暁には……、グランドチャンピオンと対戦してもらいます……」
「グランドチャンピオン? 他にも誰かいるの?」
 電話での話では、佳乃嬢と美凪嬢だけだったと聞いていたが、他に誰かいるのだろうか。
「グランドチャンピオンが誰なのかはあたし達に勝ってからのお楽しみ〜〜。じゃあまずはあたしからだよ!」
「うん! お手柔らかに。と言っても、手加減は無用だけど」
 互いの持っているゲーム機をケーブルで繋ぐ観鈴と佳乃嬢。こうして大会の闘いは始まった。



「行くよ〜〜イシツブテ!!」
「チコリータ、お願い!!」
 観鈴と佳乃嬢のバトル初戦。最初に出したポケモンは、観鈴がワニノコ、佳乃がイシツブテというポケモンだった。
「チコリータかぁ〜〜。ということは観鈴さんの手持ちポケモンはサトシ君パーティーかな?」
「ううん。わたしのは恐竜さんっぽいポケモンを集めたオリジナル。そういう佳乃さんのはタケシ君パーティかな?」
「ご名答! かのりんの手持ちポケモンはお姉さん大好きタケシ君パーティだよ! でもいわ、じめんタイプはくさタイプが苦手。いきなり大ピンチだよ〜〜」
「にはは。この勝負もらったよ。チコリータ、はっぱカッター!!」
「わっ、こうかは ばつぐん だよ〜〜!」
 イシツブテというポケモンはいわ、じめんタイプという属性を持っているらしく、どちらの属性もくさタイプの技を苦手とするらしい。 それにより観鈴の放ったはっぱカッターの効果は抜群らしく、佳乃嬢のイシツブテはたった一撃で敗れ去ったのだった。
「ぬぬぬ。いわタイプが主体のタケシ君パーティだと、進化前のチコリータも十分脅威だよ。だから、まずはその脅威を取り除かせてもらうよ! 行け〜〜ズバット参上!」
「わっ、ひこうタイプ!」
 佳乃嬢が次に出したポケモンはひこうタイプのズバット。くさタイプはひこうタイプが苦手いう話だった。
「ズバット、くろいまなざし!」
 今度は佳乃嬢が先攻だった。ひこうタイプの技を使い一気に倒すかと思えば、佳乃嬢の使った技は攻撃技ではなかった。
「ふふふ。交代はありだけど、こうすれば観鈴さんのチコリータは逃げられない。万が一チコリータが生き残っていたらイワークが大苦戦するだろうから、ここは確実に倒させてもらうよ〜〜」
「ルール上佳乃さんは交代が出来ない。つまりこの勝負はどちらかのポケモンがひんしになるまで終わらないってことだね」
「そういうこと」
「でも、わたしも簡単にはやられないよ! チコリータ、リフレクター!!」
 対する観鈴は攻撃に転じず、打撃攻撃を半減する技、リフレクターを使ったのだった。
「にはは。そう簡単にズバット解決はさせないよ!」
「なかなかやるね観鈴さん。ズバット、かみつく攻撃!」
 こうかはばつぐんとはいえ、ひこうタイプの技は半減される。ならばここは半減されない特殊攻撃技で攻めようと思ったのか、佳乃嬢はあくタイプの技かみつくで観鈴のチコリータに迫ったのだった。
「な、何っ、このプレッシャーは!? わたしのチコリータが気圧されている!?」
 かみつく攻撃は3割の確立で相手を怯ませ、観鈴のチコリータはズバットに怯み、この回観鈴は攻撃出来なかった。
 その後佳乃嬢はかみつく攻撃を連発し、観鈴が反撃に転じられたのは僅か2回だけだった。ズバットはひこうタイプの他にどくタイプの属性も持ち、どちらの属性もくさタイプは苦手だということだった。
 よって、先程イシツブテを一撃で葬り去ったはっぱカッターは、今度は逆に効果は今一つということだった。
「負けないよ! チコリータ、のしかかり!!」
 よって観鈴はくさタイプ以外の技に頼るしかなかった。観鈴の放った技のしかかりはノーマルタイプの技で、しかも3割の確立で相手をまひさせられるということだった。
 しかし運悪く、観鈴の放ったのしかかりはダメージを与えただけで、まひさせるまでには至らなかった。
「ふっふっふ〜〜。そろそろリフレクターの効果が切れる頃だね。でもその前に体力が尽きちゃうかな〜〜?」
「観鈴ちん、ピンチ! でも、まだ終わらないよ! チコリータ、こうごうせい!!」
 このままではやられると思った観鈴はこうごうせいという技でチコリータのHPを回復させたのだった。そしてこのターンが終わる共に、リフレクターの効果は切れたのだった。
「ここからが正念場だね。もう簡単にはリフレクターもこうごうせいも使わせないよ! ズバット、ちょうおんぱ!!」
「わっ、わたしのチコリータがこんらんしちゃったよ!?」
 観鈴はこのターン、再びリフレクターを使おうとした。しかし、佳乃の放ったちょうおんぱによりこんらんさせられてしまい、リフレクターを使えないどころか、自らを攻撃してしまったのだった。
「これでトドメだよぉ〜〜! ズバット、つばさでうつ攻撃〜〜!!」
「が、がおっ……」
 観鈴はつばさでうつこうげきを半減することが叶わず、その一撃によりチコリータは敗れ去ったのだった。
「まずは一匹目。さてさて、観鈴さんが次出して来るポケモンは何かな〜〜?」
「う〜ん、でんきタイプのポケモンは持ってないしここは……プテラ、お願い!」
 観鈴が次に出したポケモンは、ひこう、いわタイプを兼ね備えたプテラだった。
「やられたらやり返す。プテラ、ちょうおんぱ!!」
 先程ちょうおんぱに痛い目に遭った観鈴は、今度は佳乃を同じ目に遭わせてやろうと、ちょうおんぱ攻撃で佳乃のズバットを混乱させたのだった。
「ぐぬぬ〜〜、ズバットがちょうおんぱでこんらんさせられるなんて屈辱だよ〜〜」
 ズバットはコウモリ型のポケモン。確かに超音波と言えばコウモリが使うというイメージがある。言わばズバットのアイデンティティとも言える技を食らったのだ。それを屈辱と受け取る気持ちは分からないでもない。
「このまま一気に攻めるよ! プテラ、げんしのちから!!」
 観鈴はいわタイプの技げんしのちからでズバットを攻撃した。ひこうタイプに対しいわタイプの技は効果は抜群な上に、先程の戦いでダメージを受けていたことも重なり、佳乃のズバットは堪える間もなく敗れ去ったのだった。
「よ〜し、次は……行っけぇ〜〜! クヌギダマ〜〜!!」
「えっ!? クヌギダマ!?」
 佳乃がクヌギダマを出したことに観鈴は驚いた。何故ならば、クヌギダマはむしタイプであり、むしタイプはひこう、いわタイプに弱かった。つまり、佳乃は自ら相性の悪いポケモンを出したのだった。
 ポケモンのバトルは基本的には属性の相性によって決まるという。レベル差があれば相性問題も多少は解決出来るが、レベルが均衡している場合、属性の良し悪しが勝負に大きく関わるという。
 例えばほのおタイプにはみずタイプを、みずタイプにはでんきタイプという感じに、相手が苦手とするポケモンをぶつけるのが常道だという。それは今までのバトルを見れば素人の私にも多少は理解出来た。
 故に、敢えて相性が自分にとって最悪なポケモンを出した佳乃の行動は常軌を逸しているとしかいいようがなかったのである。
「佳乃さん、何を考えてるの……?」
「ふふふ〜〜、相性の良し悪しが、戦力の決定的差でないことを教えてやるんだよぉ〜〜」
「何を考えているか分からないけど……プテラ、ちょうおんぱ!」
 観鈴は一気に攻めると思えば攻められた。しかし、奇策を用いた佳乃の行動に動揺し、保険をかける意味合いも兼ねてちょうおんぱで攻撃したのだった。
「そう来ると思ってたよ。クヌギダマ、がまんだよっ!」
 がまんとは、技を使った後の2、3ターンの間に食らったダメージを倍にして返す技だという。つまり、観鈴がクヌギダマに対して効果が抜群な技を使い、万が一佳乃が何らかの方法でそのダメージに堪え続けたら、2、3ターン後にはその与えたダメージの倍のダメージが観鈴のプテラに襲い掛かるのだ。
(クヌギダマは確かこらえるを覚えられたはず。多分佳乃さんはこらえるを覚えさせていて、タイミングを見て使って来る筈。運悪くこらえるが連続して成功したら、わたしの負け。でも今の佳乃さんのクヌギダマはプテラのちょうおんぱで混乱している。だからそんなにこらえるを連続して使えるわけじゃない……)
 観鈴は悩んだ。致命的なダメージを食らってもHPを1残すこらえるを連続して使われれば、間違いなく負けるのはこちらの方だ。しかし、混乱している関係でこらえるを連発出来る確立は少ない。ならばここは一気にいわタイプのげんしのちからでトドメを刺すべきかと。
「プテラ、りゅうのいぶき!」
 悩んだ末観鈴はげんしのちからで攻めるのを止め、ドラゴンタイプの技、りゅうのいぶきで攻めた。ドラゴンタイプの技はむしタイプに効果が抜群というわけではない。しかし、りゅうのいぶきは3割の確立で相手をまひさせられるのだ。
 麻痺状態になれば、相手は25%の確立で技を使えなくなる。しかもまひはこんらんと重複するというのだ。つまり、りゅうのいぶきの麻痺の追加効果が決まれば、佳乃はより技を出せなくなるのだ。
 一気に倒そうとするのではなく、より自分に有利な状況に戦況を動かし勝利する。それが観鈴の選んだ選択だった。しかし、りゅうのいぶきの追加効果は出ず、単にダメージを与えただけとなった。そして佳乃はこのターン、こんらんにより自らを攻撃してしまったのだった。
「プテラ、またちょうおんぱ!」
 次ターン、観鈴は再びちょうおんぱを使った。りゅうのいぶきとこんらんで自分を攻撃したことにより、クヌギダマのHPは半分以下まで減った。この微妙なHPではりゅうのいぶきでトドメを刺すことは出来ない可能性が高い。しかもその状態でがまんの倍返しを食らえば、自分がひんしになる危険性が高い。
 恐らく佳乃は残りのHPが低いことからも確実にこらえるを使って来る。故にげんしのちからでトドメを刺すのも危険だ。ここは再びちょうおんぱを用い、相手にダメージを与えないことが肝心だ。そうすればがまんによるダメージにも堪えられる。
 それにこらえるは使えば使う程成功率が下がる。一度がまんのダメージを防いだ後ならば、再びがまんを使われ発動する間こらえられたとしても、相手の残りHPから考えてもこちらが勝利する可能性は高い。それにいざとなればこちらはポケモンを変えればいいのだ。こらえるのダメージを食らった後ポケモンを交換すればこちらの勝率もグッと高まる。
 そういう考えから観鈴はこのターンはダメージを与えないことが一番の安全策だと思い、再びちょうおんぱを使用したのだった。
 そして佳乃はこのターン、観鈴の予想通りこらえるを使った。しかし、観鈴がダメージを与えた訳ではないので、こらえるは当然のことながら失敗に終わった。攻撃を食らわずに失敗に終わった時のこらえるはその後の成功率にはあまり影響しないという。しかし、こらえるの使用回数を減らせたことは小さくはない。
 ターンの終わり、観鈴はがまんのダメージを食らいはしたが、何とか致命傷には至らなかった。
「よし! これでわたしの勝ちは決まったも同然だよ! プテラ、トドメのげんしのちから!!」
 このげんしのちからをこらえるで堪えたとしても、残りHPが1の状態ではがまんを使う余裕はない。逆に中途なダメージを与えて再びがまんを使われる方がこちらとしては脅威だ。故に間髪入れずげんしのちからで攻め続けるのが得策だと思い、観鈴はポケモンも変えずプテラのげんしのちからで攻め続ける決心を固めたのだった。
「行くよクヌギダマ、命を賭けた特攻攻撃! だいばくはつ!!」
 しかし、観鈴のげんしのちからが決まる前に、佳乃のだいばくはつが発動したのだった。だいばくはつは敵に致命傷を与える代わりに自分もひんし状態になる、正に命を賭けた特攻技。この技は大ダメージを与えられるとはいえノーマル技。本来ならばいわタイプの属性を持つプテラには効果は今一つで、ひんし状態に至るまでダメージを与えることは叶わない。
 しかし、先程のがまんのダメージを負っていたプテラはクヌギダマの大爆発に堪えられず、戦闘不能になってしまった。
 かくしてこの勝負は同士討ちに終わった。これで観鈴の手持ちポケモンは4体。対する佳乃は3体。数では観鈴が有利だが、この勝負どちらに転ぶか全く見当が付かない。それだけに、二人の闘いは単に見ているだけの私にも、見る楽しみを与えてくれたのだった。
 ここからは事実上の後半戦に等しい。果たして勝つのはどちらかっ!?



「頑張って、ガルーラ!」
「行っけ〜〜ケンタロス!」
 後半戦の第一試合。観鈴、佳乃双方とも出したポケモンはノーマルタイプ。今までは互いに相手の不得意とする属性をぶつけ、また敢えて不得意とする属性のポケモンをぶつけるといった虚虚実実の闘いが繰り広げられたが、今回は策略に頼らない真っ向勝負の展開が見られそうである。
「ガルーラ、ピヨピヨパンチ!」
「ケンタロス、かいりき!」
 観鈴は2割の確立で相手をこんらんさらせられるピヨピヨパンチを使った。対する佳乃の攻撃は追加効果のない、至って普通の攻撃だった。2〜3ターン程、双方この技を使い続け、互いのHPは3分の2程まで減った。その間、残念ながらピヨピヨパンチの追加効果は発生しなかった。
「ケンタロス、ねむって!」
 HPが減った頃合いを狙い、佳乃はねむるを使った。この技はHPが全回復するが、その代わり2ターン眠り続ける技だという。無論、眠ってしまえばその間まったく無防備になり、その間に攻撃され続けひんしになってしまっては元も子もない。
 また、眠っている間ダメージを食らい続け起きた瞬間HPが眠る前と同程度だった場合、またねむることでHPの回復は出来るが、こちらから攻撃する暇はない。言わば、ループ状態に陥る可能性があるという。
(でも、佳乃さんが何の対策もなしにねむるを使ったとは思えない……)
 観鈴はねむる対策として佳乃は、いびきかねごとのどちらかを覚えさせていると予想した。
 いびきは眠っている間に攻撃をすることが可能な技。攻撃力は低いが、3割の確立で相手を怯ませることが出来る。運が良ければこちらが無傷なままで相手のHPを減らすことが出来るのだ。
 ねごとは眠っている間覚えている技をランダムで出す技。この技を使った場合3分の1の確立でねむるを使ってしまい、眠っている状態でまた眠ることは出来ないので、この技が出た場合そのターンの攻撃は無意味となる。しかし、他の技が使えた場合普通にダメージを食らわせられるという。
(佳乃さんはずっとかいりきしか使って来なかった。技は全部で4つしか覚えられないから、あと二つまだ使ってない技がある。その内一つはいびきかねむるだということを考えると……)
 観鈴は恐らく佳乃はねごとを覚えさせているのだと思った。理由は佳乃が今までかいりきしか使って来なかったことだ。つまり、ねごとの秘策として覚えさせていた技が一つあるから、今まで使ってこなかったと。
(にはは。となると、観鈴ちん、ちょっとピンチかな……?)
 観鈴としてはいびきを覚えていてくれた方が良かった。この技はダメージ量は少ないものの相手を怯ませ、HPが3分の2程度の今の観鈴では、この技でも充分脅威がある。
 しかし、観鈴には秘策があった。それはこらえるときしかいせいだ。こらえるは前述のようにHPを1だけ残しひんしを防ぐ技。きしかいせいはHPが少なければ少ないほどダメージを与えられる技だ。
 つまり、こらえるでHPが1になった状態で使うきしかいせいは、最大限のダメージが与えられるということだ。加え、きしかいせいはノーマルタイプに唯一効果が抜群なかくとうタイプの技。HPが1の状態でのきしかいせいならば、ほぼ確実にHPが最大値のケンタロスでさえひんしに追い込むことが出来るだろう。
 残りのHPからいびき3発には何とか堪えられる。つまり佳乃がいびきを覚えていて使って来た場合、眠っている間の攻撃は何とか堪えられ、起きた直後の攻撃をこらえるで防ぎ、次ターンきしかいせいを使い辛うじて勝利を収めることが出来る。もっとも、先制攻撃が出来なければそれまでだが。
 しかし、いびきでランダムに技を出された場合、かいりきやねむるを使って来た場合残りHPからこらえるは意味を為さない。あと一つの技がかいりきと同程度の技だった場合も同様だ。逆にあと一つの技がかいりき以上の攻撃力を誇っていた場合の方がこらえるを使う関係都合が良い。
「ガルーラ、メガトンパンチ!」
 悩んだ末、観鈴は4つ目の技メガトンパンチを使った。ここできしかいせいを使いトドメを刺すとまではいかないがメガトンパンチ以上のダメージを与えるのもいい。しかし、こらえるときしかいせいのコンボを悟られないようにする為にも、きしかいせいは背水の陣な事態に陥るまで使いたくはない。よって観鈴は普通の攻撃で無難にHPを減らす策に出たのだった。
「ケンタロス、ねごと!」
(来たっ……!)
 このターンの佳乃の攻撃は観鈴の予想通りねごとだった。あとはかいりき以上の技を出されないことを願うばかりだが……。
「よぉし、はかいこうせんが出たよ〜〜!」
(えっ!? はかいこうせん)
 刹那、観鈴は自分の敗北を悟った。はかいこうせんはノーマルタイプの最強技。使用したあと行動不能になるというデメリットはあるが、ねごとでねむるが二回出たり、ねむるとかいりきが出た時よりは総じて与えるダメージ量が多いと言える。そして何より今の観鈴には、はかいこうせんに堪えられるHPはない。
「あれれっ!? ハズレちゃったよ〜〜」
 しかし、運良く佳乃の放ったはかいこうせんは外れてしまった。この瞬間観鈴は安堵すると共に、己の勝利を確信した。例え外れたとしてもはかいこうせん後は身動きが取れなくなる。つまり、その間観鈴は一方的にダメージを与えられるのだ。そして起きた後すぐにはねむるを使っては来ないだろう。恐らくは……
「ケンタロス、はかいこうせん!」
 佳乃は観鈴の予想通りはかいこうせんを使って来た。恐らく佳乃は使用後行動不能になるというデメリットを考慮しても、こちらに一気にトドメを刺す為はかいこうせんを使って来るだろうと、観鈴は踏んでいたのだった。
「ガルーラ、こらえて!」
 ならば、ここでこらえて次ターンにきしかいせいを使えば良いだけだと。ガルーラはすばやさではケンタロスに負けるが、はかいこうせん後ならすばやさを気にする必要はまったくない。
「ガルーラ! 会心のきしかいせい!!」
 そして次ターン、観鈴のきしかいせいは見事決まったのだった。


…第弐拾五話完

※後書き

 え〜〜、お盆休みからずっとゲーム三昧な日々を送っていまして、そのせいでまた一ヶ月以上間が空いてしまいました……(苦笑)。
 さて、今回は往人が観鈴を遠野へ連れて行きそこで何故かポケモンバトルを行うという話なのですが、当初の予定ではこの回のみで終わる予定でした。しかし、書いている内に長くなってしまい、このペースですと終わらせるのにあと2話はかかりそうです。
 それと、今回殆どナレーションに徹している往人とは対照的に、佳乃が大活躍していますね。正直対戦相手という設定とはいえ、第一部より目立ってますね(笑)。このポケモンバトルの後は目立つ機会はないでしょうから、実質次回が佳乃が活躍する最後の回となることでしょう(爆)。

第弐拾六話へ


戻る